一年経って想うこと

明日でレクールのオープンから一年です。語っていないことだらけなので長文が書けるこのブログでたまには多くを語りましょう。

“始動“

自分の店を持つっていつ頃考えたんですかって聞かれることもあるんですが、実は2018年に入り独立を決断し、2018年9月に開店しました。きっかけは妻の一声でした。以前の職場を離れようと思っていた頃、知り合いのホテルや飲食店から誘われていたので悩んでるタイミングで、妻が「自分で店やったら」とポソリ。そこで、ホォ・・そっか!となりました。
その一言により独立に向けて舵を取っていったのですが、果たして店を持てるのかどうか、どこから準備すべきなのかと考え、多くの開業本を買って下調べをしていきました。もちろん開業資金の借り入れなどが一番のネックです。そこをクリアする為には、いかに明確なコンセプトと納得させる数字を提示できるかにかかっていると思い、ありとあらゆるビジョンをパソコンに打ち込み資料を作成していきました。この期間に全ての労力を注力したといっても過言ではありません。その期間は年明けから3~4ヶ月かけた記憶があります。

融資を得る為だけでなく、自らの店の明確な哲学を構築しなければ、お客様も自分も誰も納得できる店はできないと思い、とにかく時間をかけました。妻には不思議に映っていたはずです、ひたすら本を読み、パソコンに向かい資料を作成している旦那・・店を開業する人の姿には到底思えなかったでしょう。まったく進んでいる気配がないわけですから。しかし、準備に全てが宿ると思っている私は、これだけのものを準備すれば融資を受ける際の面談でもお客様から聞かれたことにでも、全てに確固たる自信を持ち答えれると確信していたので長かった準備期間は今現在でも礎となっています。

“具現化”

そして春になり、融資の申請に行くのですが、基本的に融資を受けるに当たり、担当者がつき、面談を重ねて様々な書類を作成もらうことになります。しかし私は最初の面談の際、既にすべての書類を即作成できるような資料を持参しました。中にはそのまま提出できる原本としての書類も揃えていきました。アバウトではいけないので、全ての内訳や数字の確証を理由とともに伝えれる資料を作りました。担当者は驚いていてました。これで担当者の業務は格段に減るし、融資が下りるかどうかの期間も短くなります。もちろん信頼感を与えるのが第一の目的でした。
しかし、良い資料を揃えたとしても融資が下りるとは限りません。融資の判定が決まる電話を待っている期間はとても長く感じました。もし融資を受けれないとなると途方に暮れるわけです。今までの4ヶ月の準備も無駄になります。そして、1ヶ月近く経った頃ついに電話がかかってきました。妻と一緒に娘を高槻の病院に連れていっている時でした。ドキドキしながら席を外して病院の廊下で電話を受けました。融資を受けられる結果を聞き、やっとホッと安心できた瞬間でした。これで、全てを進めていけると計画を具現化できる楽しみへと変わっていきました。

路地奥のテナントがオリジナルの店を作れると思い、そこに決めました(ここを見つけたのも妻です)。ここから施工業者との内装などの打ち合わせの日々が続きました。妻は画家です。コンセプトは共有できているので、店内の色使いやインテリア、トイレに到るまで全てを任せました。施工業者の意見はほぼ無いに等しいくらい、全てこちらのオーダー通りに作ってもらいました。レクールに来ていただける方で内装をとても褒めていただけるのは、妻のセンスのおかげです。どこにもない店を作れたことに心から感謝しております。

“現実”

そして、オープンの日を迎えます。私自身、交友関係や仕事関係、飲食店などの横の繋がりはかなり少ない方ですが、お世話になった方への案内状を送らせていただいた所、とてもたくさんの方が来店して下さいました。花やお祝いもたくさんいただき、すごく嬉しかったです。妻も数日間手伝ってくれたのですが、すべてのオペレーション、物の配置、接客方法などを明確にしていたので全然バタバタはしなかったのを覚えています。プレオープンすらしていません。話しに聞いていた飲食店の初日の大変さは、特に感じなかったように思えます。これが準備の大切さだと痛感しました。でも逆にこんな落ち着いていていいのかという感じでした。

しかし、ここからが現実の日々でした。路地奥にあるワインバー、特に宣伝もしていない店。幅広い客層を取り込む店とは真逆の店。なんなら来るものを拒むような店です。勇気あるものしか辿り着けないような店。飲食店あるあるの1月2月の客数の減りにはこれが現実なのかと悲壮感が一気に押し寄せてきました。知られている店の閑散期とはわけが違います。楽観的な私もさすがに焦りが出てきました。何がいけないんだろう、SNSもやっているし、雑誌にも一応載ったし。えっそもそもワインバーに飲みに来る人ってそんなおらんの!?って絶望しかけた時期でした。
“群れない・慣れない・頼らない”のモットーでやっていけるほど京都の飲食はあまくないのか、などいろんな思いが出てきては、いや違うと打ち消していた時でもあります。無理かも・・一年もたないかも・・と常に頭に浮かんでは消す作業だった気がします。

”つきうごかすもの”

画家の妻が昔かけられた言葉「人の意見は聞くな」。これは深い言葉です。私もこの言葉に感心し、レクールをオープンするにあたりこの言葉の意味がとてもよくわかりました。
私も妻も店を作るにあたり、人の意見は一切聞きませんでした。これこそがレクールがオリジナルとなり得た核です。レクールの提供したいものは、脱日常。穏やかに流れる時間と心地良い空間。ここでしか得られないものがあり、その為に足を運んで下さる方に、真摯に向き合う。ただそれだけ。これしかできないけど、これが一番大切なこと。閑散期の落ち込みの中、改めて想い、オープンから1年経った今も変わらず続けている姿勢がこれです。

東京から来て下さる方、京都に来る度寄って下さる方、インスタを見てはるばる福岡や大分から来て下さる方、カウンターに何も置いていない、これはすごい店だと思い来て下さる方などなど。
本当に様々な方との出会いと会話が私の「つきうごかすもの」となっています。レクールに来て下さるお客様は本当に質が高く人間的に魅力的な方ばかりです。心から感謝しております。

そもそもワインなんか無くても生きていけるもんです。ワインバーでなくコンビニで買って家で飲むこともできます。居酒屋には安いワインや飲み放題のワインもあります。ではなぜ皆様わざわざレクールに来て下さるのでしょう、その想いに応えるには、感謝をして良いサービスをして人生の価値ある時間を提供できるようにすることです。これからも丁寧なサービスを心がけていきますので宜しくお願い致します。

※写真は去年のオープンの日9月15日のショットです。